仕事をしていると、１日が半径１m以内で終わってしまうようなことがある。余暇にぼんやりネットなど見ていても同様、モニターと自分の間の60cm足らずで完結していて、はたと気づくと、意識はモニターに縛られ、身体は前かがみの猫背になって、呼吸も浅くなっている。いくらネットで世界とつながっているとか言われても、視覚・聴覚に限定されて、小さな窓から覗いているような、手の中の範囲に押し込められていくような気分になる。
　対して弓を引いていると、28m先の的を見つつも意識は自分の隅々に渡り、身体を操作しつつもそれより大きなものをゆったり動かしているうちに、自然と呼吸も深く長くなっている。内に向かっているようでいて外へ解放されていくようでもあり、そして何より、すべてに実感と手応えがある。自分と的とその間（あわい）には、無でも空でも虚でもない透明な何かが満ちていて、そこに身を浸し取り込んでいるうちに、洗われていくような気分になる。
　近的28mとは、手は届かないけれど意とか心とか気といったものは届く範囲かも知れない。意識も身体も弓の力も、すべてが充実し一致しているような時には的との強固なつながりを感じるし、そしてそんな時には、予定調和のように揺るぎなく矢は的心に至る。年に一本、あるかないかのことだけれども。
　現状、道場へは射技５割・体力づくり５割のつもりで行っている。でも実際のところは、心身のリセットをしているのかも知れない。